なぜ今、メンタル不調の開示が重要なのか
近年、働き方改革やダイバーシティ推進により、「心の健康」への注目が高まっています。特にうつ病やHSP(Highly Sensitive Person)といったメンタル不調に対する理解は、少しずつ社会に広がってきました。
しかし、いざ就職活動や転職面接の場となると、「自分の状態を伝えて良いのか?」と悩む方が非常に多くいます。伝えた結果、採用が見送られたらどうしよう、職場に偏見があるかもしれない…そんな不安は当然です。
本記事では、メンタル不調を抱える方が、面接で自分らしく安心して自己開示できるように、「伝えるか・伝えないかの判断基準」「伝えるタイミング」「伝え方の工夫」などを丁寧に解説していきます。
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メンタル不調とは何か?

うつ病の症状と特性
うつ病とは、気分が落ち込みやすく、何をするにも意欲がわかず、眠れない・集中できないといった状態が長期間続く精神疾患です。一般的には「怠け」や「気の持ちよう」と誤解されがちですが、脳の機能変化によって引き起こされる医学的な症状です。
うつ病には「典型的うつ病」だけでなく、「新型うつ」や「非定型うつ病」などもあり、若年層に多いタイプでは「仕事中だけ体調が悪化する」「周囲からの評価には敏感だが、プライベートでは元気」などの特徴があります。
HSP(Highly Sensitive Person)とは?
HSPとは、心理学者エレイン・アーロン博士が提唱した「とても敏感な人」という概念です。人口の15〜20%程度に見られる特性で、病気ではありません。音・光・匂い・人間関係など外部刺激に強く反応しやすく、ストレスを感じやすい傾向があります。
一方で、HSPの人は共感力が高く、人の気持ちを深く理解できたり、細やかな観察眼で気配りができたりする長所もあります。大切なのは、「繊細さ=弱さ」ではなく「個性・強み」として活かす意識です。
メンタル不調を伝えるかどうかを判断するポイント
伝えるメリット
- 入社後の業務量や環境に配慮してもらえる
- 長期的なミスマッチや再発リスクを回避できる
- 安心して働ける体制を早期に整えられる
伝えるデメリット
- 面接官の偏見により採用を見送られる可能性がある
- 会社によってはメンタルに不理解な文化が残っていることも
- 一部の企業では「扱いづらい人材」と誤認される恐れがある
判断するためのチェックリスト
以下のような問いを自分に投げかけてみましょう:
- 現在、業務に支障が出るほどの症状はあるか?
- 配慮を受けなければ働けない可能性があるか?
- 職場環境が不適切だと再発や悪化の恐れがあるか?
YESが多い場合は、面接時に伝えることを検討しましょう。NOが多い場合は、必ずしも開示する必要はありません。
伝える場合のベストなタイミング
書類選考段階では避けるのが基本
履歴書や職務経歴書には、精神疾患やメンタル不調の記載は原則として不要です。特にHSPの場合は診断名ではないため、自己紹介欄などに「繊細な気質」として記載することは避けましょう。書類段階ではスキルや職務経験に注目されるため、心身状態はまだ伝えるタイミングではありません。
一次面接での開示は慎重に
一次面接ではまだ企業との関係性が浅く、いきなり「うつ病です」「HSPです」と伝えると誤解を招くリスクがあります。面接官によっては偏見を持っている可能性もあるため、信頼関係が築けていない段階での開示は控えるのが無難です。
最終面接・内定前後での伝達がベスト
最終面接や内定通知後、配属先が決まるタイミングで伝えることで、「どのような配慮があれば働けるか」を現実的に相談しやすくなります。また、企業側もあなたの入社意欲やスキルを評価している段階なので、リスクよりも誠実さがプラスに働く可能性が高まります。
面接での伝え方:信頼と誠実さを大切に
前向きな言い回しを意識する
例えば、単に「うつ病を経験しています」と伝えるのではなく、「過去に体調を崩したことがありますが、現在は安定しており、再発防止のためのセルフケアを継続しています」といった具合に、ポジティブな再発防止策や回復への努力を加えると印象が大きく変わります。
「何があれば働けるか」を提示する
企業側は病気の有無よりも「配慮が必要な点」「働き方の調整内容」を知りたがっています。「集中しやすい環境であれば力を発揮しやすい」「1人で黙々と行う業務が得意です」など、働きやすい条件を明示することで、企業も対応を検討しやすくなります。
専門用語ではなく、わかりやすい言葉を
面接官が医療知識を持っているとは限らないため、「DSM5」「非定型うつ病」などの専門用語は避けましょう。「時々気分の波があり集中力にばらつきが出ることがある」といった具体的な例で説明した方が、理解されやすくなります。
よくある質問と誤解への対応
Q1:うつ病だと伝えると落ちるのでは?
A:可能性はゼロではありませんが、すべての企業がそうではありません。近年は職場のメンタルヘルスへの取り組みが進んでおり、障害者雇用や合理的配慮への理解がある企業も増加しています。障碍者雇用に関してはその比率を目標として人事選考を行なっている企業もあります。
特にダイバーシティや心理的安全性を重視する企業では、誠実な自己開示がむしろ評価されることもあります。
Q2:HSPは病気と誤解される?
A:HSPは病気ではなく、性格的な気質です。ただし、説明の仕方によっては「配慮が必要な障害」だと誤解されてしまう恐れがあります。そのため、「感受性が高く、細やかな配慮や共感力が強みです」とポジティブに言い換えると良いでしょう。
Q3:病気の内容まで詳しく言う必要がある?
A:必ずしも病名や詳細を伝える必要はありません。「業務に支障が出る可能性があること」「どのような配慮が必要か」に絞って伝えることで、個人情報の過剰開示を防ぎながら、必要な理解を得ることができます。
企業選びで大切な観点
「心理的安全性」や「ウェルビーイング経営」を掲げている企業
面接でメンタル不調を伝えることを前提とするなら、受ける企業の文化や価値観も重要です。「社員の幸福度」「働きやすさ」「多様性(ダイバーシティ)」「インクルージョン」などを重視している会社は、比較的メンタル面に理解がある傾向があります。
また、「ウェルビーイング経営」や「ストレスチェック制度の導入」「産業医・保健師常駐」などが社内制度として明記されている企業も、相談や支援を受けやすい体制が整っています。
求人票・企業HP・口コミサイトのチェックポイント
以下のような記述があるかをチェックすると良いでしょう:
- 「働きやすい環境」「柔軟な働き方」などの記載
- 育児・介護と並んで「健康管理」への配慮がある
- OpenWork、転職会議などの口コミに「人間関係」「社内文化」への言及がある
- SNSでの社員の発信が自然で風通しが良い印象
なお、面接時に直接「御社では健康面への配慮はどのようにされていますか?」と尋ねることも、企業姿勢を測る良い方法です。
サポート機関や相談窓口の活用
メンタル不調がある方が就職・転職活動を行ううえで、専門機関の支援を受けることで安心して動けるようになります。以下のような支援を検討しましょう:
- ハローワーク(障害者雇用支援窓口)
精神障害者手帳がある方に限らず、メンタル不調に配慮した就職相談や求人紹介を受けられることがあります。 - 地域の精神保健福祉センター
地域ごとにある公的機関で、精神疾患や生活困難に関する相談が可能。必要に応じて就労支援機関や医療機関とも連携します。 - 就労移行支援事業所
障害福祉サービスとして、就労訓練・職場体験・就職支援などを受けられる民間機関。人との関わりやビジネスマナーの練習もでき、自信を回復しながら転職活動ができます。 - ピアサポート・オンライン相談
同じ経験を持つ仲間と交流できるピアグループや、NPO法人・自治体によるLINE相談・Zoom面談なども活用すると、孤立感を和らげる助けになります。
特に「一人で就活が不安」「相談できる人がいない」という方にとって、第三者の視点があるだけでも心理的な支えになります。
まとめ:伝え方次第で未来は変わる
うつ病やHSPといったメンタル不調を抱えることは、決して「恥」ではなく「特性」であり、正しい環境と理解があれば十分に活躍することができます。
面接での自己開示には勇気がいりますが、「どのような働き方なら力を発揮できるか」「そのためにどのような配慮が必要か」を前向きに伝えることで、企業との信頼関係を築く第一歩になります。
無理をせず、自分の体調と相談しながら、自分らしく働ける職場を見つけましょう。伝え方次第で未来は変わります。あなたには、あなたに合った居場所があります。
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